------------------------------------------------------------------------ ●コラム:車とタイヤと限界点 かくだよしあき ------------------------------------------------------------------------ 僕は昔、ストリートレーサーで、生駒、六甲とかをよく走っていた。 星野一義さんが出したタイムがあって、みんながそれを目指して練習して いた。 ストリートレーサーというのは、暴走族ではなく、純粋に山とかの峠を速 く走る事を競い合うチームがあって、そのステッカーを車に貼ったりして いた。僕は、どこにも属していなかったけど。 生駒山の頂上に遊園地があって、その手前に大きな駐車場があり、そこで 8の字コーナーの練習をしていた。 なぜ、そんなことをするかというと、僕らの間では「車の限界を知ってい る奴が本当に速い」と、言われていたからだ。 スピンアウトを経験しないと、本当の速さを知ることはできない。 コーナーを曲がっているときに、タイヤの限界や車の姿勢の限界がきて、 絶えられなくなって、車は外へ飛び出していく。 それを何度も経験すると、その車の限界を知り、速く走れるようになる。 それで、考えついたのが、駐車場での練習だ。段ボール箱を並べて、コー ナーを作り、いろんなトライアルを行っていた。 砂をまいたり、水をまいたりして、いろんな状態での車の限界を知ること ができた。 特に冬場、地面が凍って、アイスバーンになったときには、六甲を走れる 人はほとんどいなかった。 でも、僕は、生駒遊園地の駐車場での練習のおかげで、アイスバーンでも 走れたりしていた。 さて、レースでいちばん大事なのはタイヤだ。 タイヤには大きく分けて2種類ある。堅いタイヤと柔らかいタイヤだ。 堅いタイヤは、非常に限界点が高くて、限界ギリギリまで我慢してくれる。 だから、コーナーをとても速く走り抜けていけるのだ。 しかし、限界を1歩越えると、とめどなく滑り出して、コントロールを失 い、曲がることも止まることもできない。ただ、飛んでいって、あとはも う、崖壁や溝まで行ってしまう。 僕が好きだったタイヤは、ポテンザの「RE71」というタイヤで、これ はとても柔らかい。 柔らかいタイヤは限界点が低い。だから直ぐに滑り出してしまう。 コーナーを曲がっている途中で限界が近づくと、すぐに我慢できなくなっ て、簡単に滑り出してしまうのである。 しかし、ここからがこのタイヤの凄いところだ。 滑り出してからも、ねばり強く地面に食いついてくれて、じわじわと滑り ながらも、しっかりと地面をホールドしてくれるのだ。 その結果、ドライバーは、タイヤと路面の状態が非常にわかりやすく、調 整し対話しながら、安全にコーナーを走り抜けることができる。 限界点の高い、高速用タイヤである堅いタイヤより、限界点の低い柔らか いタイヤの方が、安全に快適にコントロールできるので、簡単に速く走る ことが出来る。 その特性が認められ、ポルシェやセリカGT−FOREなどの標準タイヤ として、装備されるようになった。 さて、このタイヤの話は、人にも同じ事が言えるかもしれない。 「限界が高くて、何でもやりこなせるけど、限界を超えるとパニックにな る人」「限界は低いんだけど、そこから頑張って、目標をちゃんと達成す る人」いろいろいる。 まぁ、中には限界が低くて、文句ばっかり言って、しかも頑張らないので、 目標を達成できない人もいるけど・・・ 僕は、やっぱり自分が好きだったタイヤと同じで、やわらかタイヤだ。 だって、すぐ弱音を吐いてしまう。「あ〜、もうダメだ!!」とか「あ〜、 もうできない・・・」「は〜 いやになっちゃうなぁ〜」などと、よく叫 んでいる。 しかし、弱音を吐いたからと言って、決して諦めているわけではない。 さっきの柔らかいタイヤと同じように、限界がすぐにくるけれど、やろう と決めたら、どんな障害があろうと、貪欲に取り組んで、結果的には、目 標を達成する。 仮に、途中で「や〜めた」と言って、一見やめたように見えることがあっ たとしても、実はやめてしまっているわけではなくて、何らかのきっかけ や、ヒント、ひらめきを待っているというわけだ。 そして、そのチャンスが巡ってくると、また動き出しやり遂げるのだ。 自分の限界を高く持つことは、すばらしいことかもしれないけど、それは 逆に言うと、限界を超えてしまったときに、取り返しのつかないことにな ることがある。 あんまり極端に頑張りすぎたり、我慢しすぎたりしないことだ、と僕は思 う。 限界を高く持つということは、逆に自分の中に限界を作ってしまうことに もなる。 限界を高く持つことが大事なのではなくて、限界は低くても、できないと か難しいとか思ったら、自分が出来ないことを素直に認めて、いろんな人 に相談をしたり、工夫をしたりしながら、目標を達成すればいいんじゃな いかと思う。 限界が来たから「できない」というわけでなく、また、諦めるのとも違う ということを、知っておくことが必要だ。 自分の限界を認めてからこそ、本当に頑張れるのだと思う。そして、そこ からもう一歩頑張っていくことこそが、大切なのである。 自分の壁を知り、乗り越える、それが、自分の限界を自分自身で高めてい ける事なのではないだろうか? 限界が低いことが駄目なのではない。あきらめることが駄目なのだと、僕 は思う。 |
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